地道な音のしごと
以前いた会社の仕事の関係で、NHKの音響デザインの方と話をする機会があった。
大河ドラマに代表されるような、派手でかっこいい音響効果を
つくっているところかと思ったら、(もちろんそれもあるのだが)
実は地道な一面があった。
世の中のあらゆる場所や出来事の音を収集し、ライブラリー化しているのだ。
公園、田園、駅、交差点、商店街、スキー場、住宅街、郊外の風景、灯台、港、、、、、
あらゆるところの音を収集している。しかもサラウンドで。
効果音というより背景音といった方がいい。
例えばドラマで主人公が公園で佇むシーン。
会話やBGMとは別に公園の背景音をつける。
そうすると臨場感のある映像シーンができあがる。
私が感心したのは、これを時代とともに取り直しているということ。
例えば銀座四丁目交差点の音。
昭和30年代には都電が走っていたが、今はない。
その頃は街頭テレビがあって、今は広告用のマルチビジョンがある。
ひと昔前はマクドナルド1号店が賑わっていた。
その時代によって交差点ひとつの音をとってしても変化しつづけているのである。
車のクラクションの音も違えばエンジンの走行音も違う。
街に流れるBGMはもちろん、人々の会話や笑い声なんかも違う。
全体としてその時代の音風景をつくりだしている。
なかには服部時計店の時報のように時代を超えて変わらぬ音風景もある。
そんなあらゆる音風景の歴史を、記録しつづけているということに感動した。
これは立派な文化遺産ではないだろうか。
古い町並みを紹介した写真集など、目で見えるものは多い。
しかし、音風景を紹介しているものは滅多にお目にかからない。
「日本の音風景100選」を当時の環境庁が制定したのは1996年。
もうずいぶん前だ。
国の予算として都度改訂、追加していく試みもまた必要だろう。
まち歩きの際、カメラと一緒にレコーダーも持ち歩いてみたらどうだろう。
スマホだったら今や何でも録れる。
きっと思い出が何倍にも膨らむはずだ。